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「私がロンドンの郊外でW&F商会の看板を上げたのは二十年のことでした。最初は小さな雑貨屋でしたが、幸いにも顧客と機会に恵まれ、3年前にピカデリーに5階建ての店舗を構えることができました。
私は現場主義ですので、執務室で過ごすよりも、十数名の店員に混じって、売り場で過ごすほうが落ち着きます。売り場に出ていれば、お客様が今、何を求めているのかを肌で感じることが出来ますし、店に対する注文やお叱りを、私の権限ですぐに改善することで、ご贔屓様を広げて来たという自負もございます。店員の中には、私が売り場に出ることを煙たがる者も居ますが、私も店員も文具好きという共通点がありますので、心底嫌われているというわけではなさそうです。

先週の月曜日、閉店間際のことです。私が1階のカレンダー売り場で在庫を調べておりますと、若い男性が入ってこられ、来年のカレンダーを指差してご質問をされたのです。
『すみません。このカレンダーの今年のものはありますか?』
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「私がロンドンの郊外でW&F商会の看板を上げたのは二十年のことでした。最初は小さな雑貨屋でしたが、幸いにも顧客と機会に恵まれ、3年前にピカデリーに5階建ての店舗を構えることができました。
私は現場主義ですので、執務室で過ごすよりも、十数名の店員に混じって、売り場で過ごすほうが落ち着きます。売り場に出ていれば、お客様が今、何を求めているのかを肌で感じることが出来ますし、店に対する注文やお叱りを、私の権限ですぐに改善することで、ご贔屓様を広げて来たという自負もございます。店員の中には、私が売り場に出ることを煙たがる者も居ますが、私も店員も文具好きという共通点がありますので、心底嫌われているというわけではなさそうです。

先週の月曜日、閉店間際のことです。私が1階のカレンダー売り場で在庫を調べておりますと、若い男性が入ってこられ、来年のカレンダーを指差してご質問をされたのです。
『すみません。このカレンダーの今年のものはありますか?』