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翌朝早く、頼まれた荷物を持って駅に行くと、小寒いホームでホームズが待っていた。こんなこともあろうかと、昨晩ハドソン婦人に作り置いてもらったサンドイッチと、ポットに入った熱い紅茶を、列車に揺られながら味わうことにした。

定刻どおりに発車した列車が、都心部から郊外に差し掛かった頃には、深い霧は晴れ、おだやかな朝の光が、我々のコンパートメントを照らした。
「何かわかったかい?」
私が問いかけるより先に、ホームズが口を開いた。
「え?君、なんのことだい?」
「おやおや、もう忘れたのかい。昨日のカレンダーのしるしのことだよ。」
彼はからかうように私に問いかけると、サンドイッチを包んでいた紙で、指先をぬぐった。
実際、ホームズに問われるまでは、あの印のことなどすっかり忘れていた。私はしばし考えをめぐらせて見たものの、やはり何も思い出すことは出来なかった。私は仕方なくホームズに白旗を揚げた。
「駄目だ。何一つ思い出せないよ。それよりも、昨日の依頼に関しては大いに進展があったようだね。」
「ああ、あのカレンダー愛好家氏が、何をやろうとしているかの見当はついたよ。レストレードにも、二三の調べ物を頼んであるんだけれど、まず、間違いない。」
「今日の小旅行は、どういう意味があるんだね?」
私の問いかけに、ホームズはにやりと笑って、鳥打帽を深くかぶった。
「それは君、着いてのお楽しみだよ。到着まで1時間ほど眠るとしようじゃないか。」
それ以上、ホームズは何も話す気はなさそうで、そのうち小さないびきをかき始めた。私は「カレンダー愛好家」氏が、何故今年のカレンダーを買い占めようとしているのか、また、ホームズが何にたどり着いたのかを考えているうちに、ゆっくりと眠りの淵に落ちていった。
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翌朝早く、頼まれた荷物を持って駅に行くと、小寒いホームでホームズが待っていた。こんなこともあろうかと、昨晩ハドソン婦人に作り置いてもらったサンドイッチと、ポットに入った熱い紅茶を、列車に揺られながら味わうことにした。

定刻どおりに発車した列車が、都心部から郊外に差し掛かった頃には、深い霧は晴れ、おだやかな朝の光が、我々のコンパートメントを照らした。
「何かわかったかい?」
私が問いかけるより先に、ホームズが口を開いた。
「え?君、なんのことだい?」
「おやおや、もう忘れたのかい。昨日のカレンダーのしるしのことだよ。」
彼はからかうように私に問いかけると、サンドイッチを包んでいた紙で、指先をぬぐった。
実際、ホームズに問われるまでは、あの印のことなどすっかり忘れていた。私はしばし考えをめぐらせて見たものの、やはり何も思い出すことは出来なかった。私は仕方なくホームズに白旗を揚げた。
「駄目だ。何一つ思い出せないよ。それよりも、昨日の依頼に関しては大いに進展があったようだね。」
「ああ、あのカレンダー愛好家氏が、何をやろうとしているかの見当はついたよ。レストレードにも、二三の調べ物を頼んであるんだけれど、まず、間違いない。」
「今日の小旅行は、どういう意味があるんだね?」
私の問いかけに、ホームズはにやりと笑って、鳥打帽を深くかぶった。
「それは君、着いてのお楽しみだよ。到着まで1時間ほど眠るとしようじゃないか。」
それ以上、ホームズは何も話す気はなさそうで、そのうち小さないびきをかき始めた。私は「カレンダー愛好家」氏が、何故今年のカレンダーを買い占めようとしているのか、また、ホームズが何にたどり着いたのかを考えているうちに、ゆっくりと眠りの淵に落ちていった。