■ワトソン
医者にして作家。そしてホームズの親友。
2007年の夏のさなか、数々の妨害を受けつつ執筆していた小説を、ようやく書き終えてほっとしている昨今だとか…って、締め切り何年オーバーしたんだろ(^-^;;)

最近めっきりご無沙汰している『ホームズ&ワトソンカテゴリ』のスペシャルバージョンとして、ワトソン君の書いた原稿を、7回連続で掲載します。
文具系Blogとしての不安もあったりしますが、お楽しみいただければ幸いです。
では…どうぞ。(^-^*)
医者にして作家。そしてホームズの親友。
2007年の夏のさなか、数々の妨害を受けつつ執筆していた小説を、ようやく書き終えてほっとしている昨今だとか…って、締め切り何年オーバーしたんだろ(^-^;;)

最近めっきりご無沙汰している『ホームズ&ワトソンカテゴリ』のスペシャルバージョンとして、ワトソン君の書いた原稿を、7回連続で掲載します。
文具系Blogとしての不安もあったりしますが、お楽しみいただければ幸いです。
では…どうぞ。(^-^*)
10月のカレンダー [ The Calendar Collector ]
ジョン・H・ワトソン
10月も終わりに差し掛かると、秋風とは違った鋭い冷気が、少しずつ夜風や水辺に絵の具のように混じり込んで来る。暖炉に火を入れるにはまだ早いが、ふと明け方に目覚めた時の肌の粟立ちで、冬将軍の足音を感じるものだ。
ここベーカー街221Bの窓からは、夕暮れに照らされた街路樹が見える。色づいた葉が力尽きたように2、3枚、はらりはらりと舞い落ちてゆくさまは、物悲しくも美しく、暖かい部屋と紅茶、そして傍らのすばらしい友人を贈りたもうた神に、感謝を捧げたくなる衝動にかられる。
この年の夏から初秋にかけて、ホームズは多忙を極めた。「古いボール箱事件」、「開封されないインク壷事件」、「途中で途切れた手帳事件」それに「透明軸の万年筆事件」など、次から次へと事件が起こり、彼は駆り立てられた狐のようにロンドン中を走り回った。
いくつかの事件には私も同行し、悲喜劇(もっとも悲劇の終幕前に、わがホームズが事件を解決したのであるが)を目の当たりにした。非常にセンセーショナルで忘れられない体験もしたが、詳細を語るにはまだ時が早いため、それらの事件にかかわる資料やノートは、「いつもの」トランクの奥底で、熟成に向かった眠りについている。
~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~
1888年の10月には、身辺の騒がしさもひと段落を迎え、ホームズと私は怠惰な日々に戻っていた。その日も、朝から一人の来客もなく、私はお気に入りの窓辺で紅茶をすすりながら、夕映えに照らされた街路樹を見つめ、ホームズはといえば、パイプ煙草をもうもうとふかしながら、ぼんやりと壁にかかったカレンダーを見つめていた。
「ねえ、ワトソン君。」
「何だい。ホームズ。」
私は窓辺から、ホームズの向かいのソファに移動して、手にしたカップと皿をテーブルに置いた。
「その印には、どんな意味があるんだい?」
「ああ、その星印は僕が書いたんだ。燃えるごみの日だよ。最近は分別が厳しくて、決められた日に出さないと収集してくれないんだ。」
「いいや、ワトソン君。毎週火曜日のことじゃなくって、この丸印のことだよ。」
カレンダーを見ると、10月初めのある日付の側に、小さく青い丸が記されていた。私は額に手をあてて、記憶を探ってみたが、その日が何の日か思い出すことはできなかった。
「何の日だったかな。」
「おいおいワトソン君、老け込むには早すぎるぜ。君にとって、何か特別な日じゃないのかい?」
「それが思い出せないんだ。ひょっとして君が書いたんじゃないか?」
「僕にはカレンダーを見る習慣は無いんだよ。見もしないものに印をつけたりはしないだろう?」
私は、自分がとても年老いた心地になった。なんとか思い出そうと、こめかみに力を入れても、断片的な記憶の波からは、その日のことも、日付に丸を書いたことも、何一つ救い上げることはできなかった。
そんな私の姿を見て、冷酷なホームズがなおも一言、追い討ちをかけようとしたその時、ノックの音がした。
急に思考を中断され、眩暈のような感覚を覚えながらドアを開けると、そこには品のいい小柄な中年男性が立っていた。
「こんばんは。ホームズさん?」
男性は、手にした鍔広帽子をもみしだきながら、少し困ったような微笑で私を見上げた。
「いいえ、わたしは同居人のワトソンです。ホームズは奥におりますが、どちら様ですか?」
「ああ、いらっしゃいスイフトさん。どうぞこちらへ。」
来客はホームズの招きで、ほっとしたように私に会釈をして部屋に入った。私は取り残された気持ちのまま、来客のために道をあけた。
「こちらはウルフギャング&ファビアン商会のスイフトさん。どうかお気になさらないでください、ワトソン君は僕の重要なパートナーで、今回のお話を一緒に聞かせていただきます。」
「ああ!あなたが有名なワトソン博士でしたか。申し遅れました。私は文具店を経営しているスイフトと申します。本日お伺いしたのは…」
「まあ、こちらにおかけください。すぐにハドソン婦人がお茶を持ってきてくれると思います。」
小柄なスイフト氏の「有名なワトソン」という言葉で、少し救われた気持ちになった私は、来客のためにテーブルの皿とカップを片付けると、ホームズとともにソファに座った。
依頼人は、何から切り出してよいのか迷っている様子だった。ホームズはポケットから小さなメッセージカードを取り出すと、私に手渡した。
「今朝、君が留守中に、メッセージボーイがこれを届けてくれたんだ。」
薄いクリーム色のカードには、美しい筆記体で「奇妙なお客様について、ご相談したい。18:30に伺います。 ウルフギャング&ファビアン商会 スイフト」と記されていた。
私は目を上げ、スイフト氏の背後の壁を見た。スイフト氏は、私の視線を追い、壁に貼られたカレンダーを認めると、にっこりと笑った。
「わが社の特製カレンダーをお買い上げいただきありがとうございます。毎年このカレンダーは良く売れるのですよ。」
「ああ!思い出しました。W&F商会といえば文房具専門店でしたね。ピカデリー広場の本店にはよく行くのですよ。」
「たしかワトソン君は、W&F商会の熱心なファンだったんじゃないか?」
「うん。ロンドン中探しても、あそこほどセンスのいい品物がたくさんそろっている店は無いよ。僕よりももっと熱心なファンが沢山いて、オリジナル小物なんて、発売したはしからすぐに売切れてしまうんだ。」
スイフト氏はかなり気を良くしたようで、にこにこと微笑んでいたが、急に顔を曇らせて口を開いた。
「実はそのお客様のことで、ご相談があるのです。」
ホームズは椅子に浅く腰掛けると、両手を合わせて前かがみになった。
「ハドソンさんが階段を上ってくる音が聞こえました。さぁ、美味しいお茶と一緒に、お話を承りましょう。」
(つづく)
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おおっ
新潮文庫の翻訳文を読むような会話のスムーズさ。
このクオリティがあと6回続くんですね。
6回!
あと6回!
楽しみだなぁ、6回も!!
兄さんの事だから、オマケに1話付く事は間違いないっ!(断言)
と何気にプレッシャーを掛け捲っている訳ではないので。(本当か?(^_^;))
さあ、次回楽しみにしておりますぞ。
あ、そういえばホームズ初恋の人アドラーさん(チガウ)のスピンオフ?が出るらしいですよぉ~。
おおおっ!
さぁすが姐さん!ツボを解っていただいてもうそれだけで嬉しいです(^-^*)
オマケの1話はさすがに長すぎるので、そこはまた別の形で…(なんだそりゃ)
> アドラーさん(チガウ)のスピンオフ?が出るらしいですよぉ~。
あらまぁ…なんと。ホームズの息子とか彼女の話し(何故かアメリカ人(笑)らしい)なら盛ってますが、『彼女』となると、ちょっとアレですねぇ…例の皇太子との恋の駆け引きとかあるのかしら?謎ですねぇ